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●川③オハイオの岸辺で [a landscape]

Come my love, let's take a walk
Just a little ways away
While we walk away we'll talk
We'll talk about our wedding day

Only say that you'll be mine
In our home we'll happy be
Down beside where the waters flow
Down on the banks of the Ohio

([BANKS OF THE OHIO]オハイオの岸辺で TRADITIONAL)

アメリカ最長の川といえば、「ミシシッピー」。その全長は3799キロメートルというから、日本最長の信濃川の約10倍。
アメリカの北部、ミネソタに源を発し、アイオワ、ミズーリ、イリノイ、アーカンソー、ミシシッピーなどの各州を横断して、最後はルイジアナ州からメキシコ湾へと注ぐ。

ミシシッピーにはいくつかの支流があり、そのうちのひとつがオハイオ(川)。
東部ペンシルヴェニア州ピッツバーグを始点に、イリノイ州カイロでミシシッピーと合流する。

ヨーロッパ各国が北米大陸へなだれこむ以前、すでに原住民たちが生活していたことは周知だが、彼らネイティヴアメリカンにとってオハイオは水上交通路として欠かせない川だった。ミシシッピーは彼らの言葉で「大きな川」という意味だが、オハイオもまた「美し川」という意味をもっている。
また、そののち北部と南部の境界線ともいわれた川で、黒人奴隷たちにとってこのオハイオを越えることが自由への脱出を意味した。

バラッド「オハイオの岸辺で」BANKS OF THE OHIO はトラディショナルソングということもあり、ドク・ワトソンDOC WATSON、ジョーン・バエズJOAN BAEZ、カーター・ファミリーCARTER FAMILY、クラレンス・ホワイトCLARENCE WHITE、ヘイディ・ハウゲHEIDI HAUGEなど多くのシンガーに歌われ、演奏されている。
中でも好きなのがフラット・マンドリンと、お得意のハーモニーでシンプルかつ素朴な雰囲気が伝わってくるニュー・ロストシティ・ランブラーズTHE NEW LOST CITY RAMBLERS版。

素朴といっても実はこの歌、殺人の歌なのである。
資料がなくなってしまい、詳細は書けないが、たしか実際におこった殺人事件を歌ったものだということを読んだ記憶がある。

歌詞は単純で、好きな女性に求婚を迫った男が、拒絶され、相手を刺し殺してしまうというストーリー。そして死体をオハイオ川に投げ込み、川下に流されていくのを見ていたというのだから残酷な話。男はそのまま家へ帰るが、翌日保安官が訪ねてきてあえなく捕まってしまう、というところでバラッドは終わっている。

テレビもラジオもない時代、こういう事件が無名のバラッド・シンガーによって歌われ、それが各州へと伝わっていったものだろう。
殺人事件に限らず、船の遭難とか、大火事とか、炭鉱事故など実際に起こった事柄が歌によって伝承されていったというケースは少なくない。

日本ではどうか。
明治・大正時代には演歌師によって、そういうトピカルソングも歌われたのではないか。
たとえば、医学生による少年殺人人肉食事件は添田唖蝉坊によって「夜半の追憶」や「袖しぐれ」という歌になっている(曲はいずれも「美しき天然」)。

昭和以降ということでは、学生のボート事故を歌った「真白き富士の嶺」、心中事件の「天国に結ぶ恋」、大火事を歌ったナターシャ・セブン「103人のバラード」、高田渡「大・ダイジェスト版三億円強奪事件の歌」などがある。
また、当時の市川染五郎(松本幸四郎)ザ・ピーナッツの競作となった「返しておくれ今すぐに」は、幼児誘拐事件の犯人に対し、自首を呼びかける珍しいメッセージソング。結局犯人は2年後に逮捕されたが、幼児も遺体でみつかるという悲惨な結果に終わった。

話をオハイオに戻して。
その他、オハイオを歌ったものがカントリーにはいくつかあるが、C.S.N.&Yにも「オハイオ」OHIO がある。70年の彼らのコンサートを収録したアルバム[4 WAY STREET]の中の1曲。ただし、これは“川”を歌ったものではない。

ニール・ヤングNEIL YOUNGが作った曲で、1970年にオハイオ州のケント大学で起きた、
警官隊と反戦運動をする学生の衝突事件に触発されたもの。この事件では学生4人が射殺された。ニール・ヤングの呼びかけで、ただちにクロスビーら3人が集まり、わずか15分でレコーディングを終えた、という話が伝わっている。

そのニール・ヤングの初期の作品に「ダウン・バイ・ザ・リヴァー」DOWN BY THE RIVERがある。映画「いちご白書」の中にも出てくるそうで(記憶にない)、この歌も「オハイオの岸辺で」同様、川辺で彼女を殺してしまうストーリー。こちらの凶器はナイフではなく拳銃だが。

時の流れにもたとえられる川の流れ。その静かな流れに死体はなぜか似合っている。


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