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●川①北上夜曲 [a landscape]

♪ 匂いやさしい 白百合の
  濡れているよな あの瞳
  想い出すのは 想い出すのは
  北上河原の 月の夜

  宵の灯 点(とも)すころ
  心ほのかな 初恋を
  想い出すのは 想い出すのは
  北上河原の せせらぎよ
(「北上夜曲」詞:菊地規、曲:安藤睦夫、歌:ダーク・ダックス他、昭和36年)

日本全国どこへ行っても川はあるし、故郷にも都会にも川はある。
北は北海道の石狩川、天塩川から南は熊本の球磨川、鹿児島の川内川まで、日本列島には一級河川、二級河川合わせただけでも20000以上の川があるとか。

日本最長の川といえば、群馬、長野、新潟の各県を流れ、日本海へそそぐ信濃川。その延長距離は360キロあまり。次いで関東一都五県を流れる利根川、北海道の石狩川、天塩川の順になる。

水資源として、あるいはエネルギー源として人間の生活に欠かせない川。またその緩やかな流れに舟を浮かべたり、魚釣りに興じたりと、人間の遊興や叙情への思いを満たせてくれるのもまた川。
そんな川はまた、天然の気まぐれによって濁流となり、時には人をのみこみ、また時には町を水没させてしまう。そんな“凶暴”な一面ももっている。

そうした川だが、流行歌には欠かせない風景でもある。
「川は流れる」(仲宗根美樹)「川の流れのように」(美空ひばり)のように歌のタイトルになっているものもあれば、♪川は流れてどこどこいくの 「花」(喜名昌吉)や♪川のある土地へ 行きたいと…… 「桜三月散歩道」(井上陽水) などのように歌詞に出てくるものもある。
いずれにしても、「不特定の川」として歌われる場合が多い。

しかし中には固有の川をうたった歌もある。
最も知られているのはフォークソングの「神田川」(かぐや姫)だろう。
しかし、数でいうと歌謡曲・演歌が圧倒的に多い。思いつくままあげてみると、
「石狩川悲歌」(三橋美智也)、「千曲川」・「長良川艶歌」(五木ひろし)、「津和野川」(舟木一夫)、「すみだ川」(東海林太郎)、「天竜下れば」(市丸)、「大利根無情」(三波春夫)、「真室川ブギ」(林伊佐緒)、「大川流し」(美空ひばり)、「加茂川ブルース」(フランク永井)、「宇治川哀歌」(香西かおり)とキリがない。

歌詞の中にでてくるものでも、釧路川「釧路の夜」(美川憲一)、広瀬川「青葉城恋唄」(さとう宗幸)、利根川「船頭小唄」(森繁久彌)、「潮来笠」(橋幸夫)など 、遠賀川「織江の唄」(山崎ハコ)、高瀬川「京都慕情」(渚ゆう子)、隅田川「マリリン・モンロー・ノーリターン」(野坂昭如)、江戸川「葛飾にバッタを見た」(なぎらけんいち) とこちらも際限がない。

そんななかで「北上夜曲」は岩手県と宮城県を流れる北上川を歌ったもの。
北上川は全長250キロあまりで、東北一の川。その長さは日本でも5番目。“きたかみがわ”できたがみとは濁らない。したがって“きたかみやきょく”。

歌がヒットしたのは60年安保の翌年。
はじめ、当時全盛だった『うたごえ喫茶』で歌われていた作者不明の歌だった。抒情的な詞と感傷的なメロディーが当時代の気分に合ったのか、すこぶる評判が良かった。
ならば、レコード会社が放ってはおかない。数社がレコーディングをすることに。そのあと作者が名乗り出てきた。当時はこういうケースがたまにあったとか。

作者は菊地規安藤睦夫。岩手師範学校の生徒だった菊地の「北上川感傷」という詩に、友人で青森の中学生・安藤が曲をつけたもの。時は昭和16年。つまり戦前に、2人の中学生によって作られた歌なのだ。

菊地はこの「北上夜曲」を師範学校の休み時間に、級友たちに歌って聞かせたとか。彼らはやがて卒業し、あちこちの小学校へと赴任していった。そして、そこで生徒たちに歌い聞かせ、やがて「北上夜曲」は人知れず世間にひろまっていった。というエピソードが伝わっている。

「北上夜曲」は各社競作となりダーク・ダックスの他に、多摩幸子&和田弘とマヒナスターズ、菅原都々子などでレコード化された。また、当時は映画最盛期でもあり、日活、大映、新東宝の3社が映画化したというからびっくり。ヒット曲=映画のヒットという方程式が通用した時代。

現在人口9万人あまりをかかえる岩手県北上市の市花は「しらゆり」だそうだ。もしかして、「北上夜曲」のイメージを尊重して選定されたのかも。
「しらゆり」とは百合の種類ではなく、テッポウユリのような「白い」ゆりのことのようだ。
いずれにしても、日本が泥沼の戦争に突入する直前、2人の少年によって作られた可憐な歌が、20年後に日の目を見て、多くの人が口ずさむことになったのだ。
現代では考えられない、昭和ならではの“伝説”といえるかもしれない。


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pafu

静岡市には安倍川が流れており(以下略)

わたし、あべかわもちって言っ鱈、きなこをまぶしたお餅の食べ方を言うのだとばっかり思っていました。本当は安倍川の餅だから安倍川餅なのであって、あんこやゴマでも「安倍川餅」なんだそうです。知らなかった。

素敵な記事なのに下品なコメントでごめんなさい。
by pafu (2007-09-29 00:25) 

MOMO

じつはわたし、覚えていないのですが静岡で生まれたようです。
また、現在も友人が多かったりと、なにかと静岡には縁があります。
静岡って方言が愛知と神奈川の中間でおもしろいですよね。

そういえば静岡にはよく知られた川が多いですね。
狩野川、富士川、そして安倍川。大井川に天竜川というように。

わたしも“あべかわ”はきなこ餅のことだと思っていました。
by MOMO (2007-09-30 21:17) 

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