●回り道：Picture on the Wall：SSブログ

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●回り道　[a landscape] [編集]

♪　桜の花のような　小雪がふりかかる
　　おまえのおくれ毛を　この手でなでつける
　　まわり道を　したけれど
　　めぐり逢えたら　いいさ　いいさ
　　遅れてやってきた　二人の春に
　　乾杯を　あああゝ
（「まわり道」詞・なかにし礼、曲・三木たかし、歌・琴風豪規、昭和５７年）

出逢い→別れ→苦労→再会　これを「回り道」という。演歌十八番というものがあれば、必ず入っている外題。

男と女が知り合って結婚して、子供が出来て、やがて子供も成長し、孫が出来てメデタシメデタシ。これではメロドラマにならない。恋愛ゲームの大団円に持っていくには別れやすれ違いというアクシデントが不可欠なことはドラマツルギーのイロハ（ホントかね）。

真っ直ぐに最短距離を行かず、わざわざ回り道する人間が不器用。要領がわるいとか、世間知らずということで否定的な言葉だったのが、いつのころからかカッコイイ男のキーワードのひとつに。高倉健さんあたりからだったか。
だから“不器用”というと、真っ直ぐで純で根が優しくてって、なぜか人間として肯定的な要素がついてくる。不器用な嘘つきだって、世間ズレした不器用だっているんだけれど。

でもやっぱり世の中ってなかなか最短距離では行けないことが多い。客観的に見れば無駄である回り道は当たり前のプロセスなのかも。

上にのせた「まわり道」を歌っている琴風は名前からもわかるとおりお相撲さん。相撲取りはなぜか声のいい人が多かったり、相撲甚句でノドを鍛えている人がいたりして、現役中にレコード歌手になった人も何人か。そんななかでヒット曲を出したのは、この琴風のほかに増位山大志郎（「そんな夕子に惚れました」）がいる。

琴風は努力の力士として知られる。大関目前で足を骨折し幕下まで陥落したが、ふたたびはい上がって大関へ昇進した。いってみれば彼もずいぶん「回り道」をした。
引退後は尾車親方として弟子の育成をはかるとともに、聡明さと巧みな話術でテレビ解説などをこなした。

「まわり道」あるいは「回り道」、「廻り道」というタイトルの歌は多く、主なシンガーをあげてみると、和田弘とマヒナスターズ、小泉今日子、佐渡山豊、山東昭子、島倉千代子、加藤登紀子、芦野宏、浜畑賢吉……、という具合。
「急がば回れ」なんて、これはベンチャーズの[WALK DON'T RUN]。そういえばカントリーソングにもそのままの「廻り道」DETOUR という曲があった。

歌詞にもよく出てくる。
♪　女と男の回り道なら　もう俺は迷わない　「セクシュアルバイオレット№１」（桑名正博）
♪　すれ違いや回り道を　あと何回すぎたら　「タッチ」岩崎良美
♪　まわり道　最初の人に　帰る日も　「ヤマトナデシコ七変化」（小泉今日子）
♪　廻り道だと　笑うだろうが　「サクセス」（ダウンタウン・ブギウギ・バンド）
♪　まわり道でも　旅の終わりに　「人生（たび）の空から」（松山千春）
♪　恋をひろいに　まわり道　「はしご酒」（藤圭子）

回り道して、ようやくの再会。
その「再会」では、獄舎にいる彼との再会への願いを歌った松尾和子と、街角での昔の彼との再会に揺れる女ごころを歌った金子由香利のシャンソンがよく知られている。
そのほか、佐藤隆、舟木一夫、杉田二郎、杉良太郎にも「再会」があり、五木ひろしには「再り会い」がある。また松尾和子には続編とも言うべき「再会の朝」があり、石原裕次郎には「再会の夜」がある。

こうしてみると、日本人は「回り道」が好きなのかも。岐路に立って左へ曲がればすぐに目的地に着くってわかっていても、ついつい右へ行ってしまう。これがけっこうおもしろいことがあったりして。

琴風の「まわり道」のように　♪めぐり逢えたらいいさ　って、そりゃそうなんだけど。でも、なかには遠回りしたあげく、とうとう目的地に着かなかったり、めぐり逢いたい人と不縁に終わったりして。もしかしたら、そんなコースアウトしたままサヨナラのほうが多いのかも。でも、ものごと考えようで、「回り道」のおかげで……、ということだってあるのだから。