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『反戦歌』 [noisy life]

 

Shul, shul, shularoo, shularakshak, shulababacoo
When I saw my Sally Babby Beal come bible in the boo shy Lorey.

Here I sit on Butter milk hill;
Who could blame me cry my fill;
Ev'ry tear would turn a mill,
Johnny's gone for a soldier.
…………
([GONE THE RAINBOW]虹と共に消えた恋 words, music and vocal by PETER, PAUL AND MARY, 1963)

♪シュー シュー シューラール シューラーラクシャク シュラババクー
妙な歌詞でした。何かのお経か呪いかってなもん。

1960年代半ば、アメリカがベトナムに侵略していた頃、そのアメリカンからモダン・フォークソングという音楽が日本に入ってきました。そのなかの一曲がP.P.M.の歌うこの「虹と共に消えた恋」GONE THE RAINBOW

P.P.M.が作ったこの歌には、じつは本歌がありました。
南北戦争当時というから、1860年代に歌われたという「ジョニーは行ったの兵隊に」JOHNNY HAS GONE FOR A SOLDIER がそれ。

さらに元をたどっていくと、17世紀のアイルランドへ。それはアイルランドの伝承歌「Siúil A Rún」で、そこには恋人や夫を戦地に送り出してしまった女性の悲しみや淋しさが歌われている。Siúil A Rún とはゲール語(アイルランドの言葉)で旅立つ人の無事を祈る言葉だとか。その「Siúil A Rún」の歌詞の中に“Siuil, siuil, siuil a ruin”と♪シュー シュー シューラール と同じような言葉も出て来ます。これはやはりゲール語で「愛しい人よ 私のところへきて」というような内容なのだそうです。

この歌の生まれた背景にはイングランドとフランスの第二次百年戦争? があり、同時に、イングランドによるアイルランドへの弾圧がありました。
そのためアイルランドの若者たちは、フランスへ渡り、イングランド軍と戦います。そのときにできたのが「Siuil A Run」。反戦というメッセージではなく、愛する人を奪われてしまった悲しみをうたった歌。

そんな歌が200年後にP.P.M.により、強烈な反戦歌としてリメイクされたわけです。
当時、プロテストソング、反戦歌はモダン・フォークのひとつの大きな側面でした。

「悲惨な戦争」CRUEL WAR、「花はどこへ行った」WHERE HAVE ALL THE FLOWERS GONE、「風に吹かれて」BLOWIN' IN THE WIND、「勝利を我らに」WE SHALL OVERCOME、「平和の誓い」LAST NIGHT I HAD THE STRANGEST DREAM、「我が祖国」THIS LAND IS YOUR LAND、「ダウン・バイ・ザ・リヴァー・サイド」DOWN BY THE RIVER SIDE、そして「虹と共に消えた恋」GONE THE RAINBOW …………。

その20年前、日本にも戦争がありました。そのさなか、われわれの先輩たちはどんな歌をうたっていたのか。

♪あゝ壮烈の海の鷲 爆弾抱いて体当たり「大東亜戦争海軍の歌」とか♪銃撃に もろくも墜ちる 米英機「戦闘機隊の歌」など戦意高揚の軍歌一色。反戦歌、厭戦歌などもってのほか、歌わずとも言葉にしようものなら“非国民”として拘留されたほど。

それなのに、アメリカ国民ときたら、自国の戦争に反対するとは。それも歌という媒体をつかって不特定多数にメッセージを送るとは。アメリカという国はなんて自由な国なんだ。そう感嘆したもの。

このようにして日本の戦後生まれの若者たち、すなわち“戦争を知らない子供たち”の幾人かは、そうしたアメリカ製プロテストソングによって、反戦を学び、同時に傲慢な国アメリカの中にある“良心”を知ったのでした。

また、そんなアメリカのプロテストソングに触発されて、当時、日本でも多くの反戦歌が誕生しました。たとえば、
「教訓Ⅰ」「戦争をしましょう」(加川良)、「戦争は知らない」(カルメン・マキ、フォーク・クルセダーズ)、「戦争を知らない子供たち」(ジローズ)、「死んだ男の残したものは」「さとうきび畑」(森山良子)などなど。

それからまた40年あまり。あのアメリカの良心はどこへ。

2001年9月11日のあの悲劇から、アメリカの報復攻撃が始まりました。当初、イラクへの侵略を国民の90%が支持したとか。
再び、あの「ダウン・バイ・ザ・リヴァー・サイド」が「悲惨な戦争」が「平和の誓い」が、そして「勝利を我らに」や「虹と共に消えた恋」が聞こえてくると信じていました。あの良心は健在だと。しかし、聞こえてきたのは「アメリカ国歌」「ゴッド・ブレス・アメリカ」ばかり。

それから6年が経過し、ベトナムを再現したようなイラク戦争の泥沼化。さすがにアメリカ国内でも厭戦気分が広がってきているようです。しかし、それでもあの反戦歌は聞こえてきません。いえ、40年前のフォークソングでなくてもいいのです。ロックでもヒップホップでもレゲエでもいい、とにかく[STADY WAR NO MORE]というアメリカの歌声が聞きたい。

おおきなお世話? そうここは日本です。

戦後62年、戦場から遠く離れてしまったように見える日本では、反戦歌がリアリティーをもたないのかも。しかし、戦争が心霊現象よりもはるかに恐ろしいものだということを、歴史から学び、かつイマジネーションによって知っておく必要はあると思う。
たとえば、原爆投下後や東京大空襲後の写真、あの手足を宙に伸ばした、人の形をした黒く炭化した“物体”を、将来の自分自身、あるいは自分の身近な人に置き換えるだけで、撲滅すべき戦争の姿が見えてくるはず。

日本でも現代の若者が、今の言葉で歌う反戦歌、あるいは戦争の対極にある平和を願う歌をぜひとも聞いてみたいな。改憲、護憲の問題ひとつとっても、日本が戦場からはるか遠く離れているとは思えないもの。


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Ma-toshi

ちょうど高校から大学にかけて、日本製「反戦歌」が流行りました。
でも、嫌いでした。まわりにその戦争で家族を失った人がいっぱいいて、そういった人たちから聞く話のほうが、「反戦歌」を何回繰り返して聴かされても伝わってこない、強烈なメッセージがあったからです。
戦争にいった人が、そんな日本製「反戦歌」をどんな風に聴いていたか・・・。
by Ma-toshi (2007-08-16 23:57) 

pafu

ケルティックウーマンの同名アルバムに「シューリ・ルゥ」という曲がありますが、それを思い出しました。ゲール語の曲ってどことなく日本民謡に似ているんですよ。
暑いので、倒れないでくださいね。
by pafu (2007-08-17 06:57) 

MOMO

そうですね。
体験者の話には説得力がある場合が多いですね。ちなみに私がいちばん戦争を学習したのは、幸いにも戦地から生還した亡き父親からでした。

ただ、残念なことにそうした戦争体験者はどんどん少なくなっていきます。やがて誰もいなくなってしまったとき、それでも誰かが戦争の醜悪さ悲惨さを言い続けたり、歌い続けたりしなければなりません。まあ、そういう人間は必ず出てくるので心配はしていないのですが。
by MOMO (2007-08-17 20:47) 

MOMO

pafuさん、まさにその「シューリ・ルゥ」Siúil a Rún(WALK MY LOVE)が「虹と共に消えた恋」の本歌です。大事なことを書き落としてしまいました。
[CELTIC WOMAN]は今月はじめに入手して、まだゆっくり聴いていませんで、pafuさんのコメントで慌てて今日聴いてみたところ、わかった次第です。資料を読んでその本歌とやらを一度聞いてみたいな、などと呑気に思っていたのですから、灯台もと暗しもいいとこですね。

重要なご指摘ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
アイルランド語ではなくゲール語ですね。訂正しておきます。

どこもかしこもほんとに暑いですね。pafuさんも体調をくずしませんように。
by MOMO (2007-08-17 20:47) 

ジージ

たまたま立ち寄らせていただき、まったく知らなかったことを教えていただきました。ありがとうございます。
この記事について、私のブログで引用などさせていただきました。
トラックバックしようと思ったのですが、うまくできそうになかったので、コメントさせていただきます。
またときどきたちよらせていただきます。すごく勉強になりました。ありがとうございました。
by ジージ (2010-07-23 09:01) 

MOMO

ジージさん立ち止まっていただいてありがとうございます。

勉強になっただなんて恐縮しております。

引用はご自由にどうぞ。

こちらこそよろしくお願いいたします。
by MOMO (2010-07-24 22:46) 

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