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[古本] [ozolagnia]


♪ …………
  胸の中に秘めていた 恋への憧れは
  いつもはかなく破れて ひとり書いた日記
  本棚に目をやれば あの頃読んだ小説
  過ぎし日よ わたしの 学生時代
(「学生時代」詞、曲:平岡精二、歌:ペギー葉山、昭和40年)

先日、古本屋で“盗み”をしてしまった。ある本を棚から取って開いて見ていたら、栞代わりに馬券が挿んであった。2002年というから5年前のGⅠ・安田記念の単勝馬券で、2頭を各100円ずつ買ってあった。もちろん期限切れで的中していたとしても払い戻しはできない。わたしは少し躊躇ったが、モニターされていることを覚悟してその馬券をポケットに入れ、店を出た。

新しい本や雑誌には紙とインクの油臭い匂いがする。したがって新刊の書店は同様な匂いで充ちている。また、古本にも独特の匂いがある。それが大量にある古書店ではその匂いは強烈である。わたしはさほど抵抗がないが、嫌う人もいる。知り合いで、あの匂いを長時間嗅いでいるとお腹が痛くなるという人がいる。人間が歳をとって加齢臭がでてくるように、本だって年を経ればそれなりににおう。変色するしシミだって出てくる。どんなに感動させてくれた本だって、知り合いからプレゼントされた想い出の本だって、それは同じ。

古書店へ行くということは、そうした年老いた本たちの“体臭”を嗅ぎにいくことを覚悟しなくてはならない。もっとも、最近の古本チェーン店は消臭効果がよいのか、あまり匂わない。だから若い人がずいぶん立ち読みしている。個々の本も磨かれ、削られて一見若返っている。たまによれよれの本も見かけるが、そういうのは100円均一で、それでも売れずに棚に残っている。そんななかに捜している本があったりして。ほんとうに。

現在の本は、100年も経つと紙はボロボロ、インクは掠れてゴミ同然になってしまうと聞いたことがあった。まあ、必要な本ならば再出版されていのちを繋いでいくのだろうが。いや、もはや紙やインクの時代ではないって? そうかもしれない。しかし、気に入った本のページをめくるときの、親指と人差し指の間に挟んだ、あの薄い紙の感触は液晶画面では味わえない。それが、たんに触感にとどまらないことは言うまでもないが。

“チャペル”“讃美歌”“十字架”といったキリスト教を彷彿させるキーワードが出てくる「学生時代」は、平岡精二およびペギー葉山の母校である青山学院をイメージして作られた。平岡精二は木琴奏者・平岡養一を父にもつヴィブラホーン奏者。昭和20年代から平岡精二クインテットを結成してジャズ、ポップスの世界で活躍。同じヴィヴラホーンのミルト・ジャクソンに影響され、MJQの曲などもレコーディングしていた。また、渡辺プロに在籍し、藤木孝が専属歌手だったり、中尾ミエにレッスンをつけたり、若手歌手の育成にも一役かった。
器用でトランペットやサックスをこなしたほか、作詞、作曲も。「学生時代」はその代表曲。ほかに、「あいつ」(旗照夫)、「爪」(ペギー葉山)、「君について行こう」(ザ・シャデラックス)などのヒット曲がある。平成2年、還暦を前にして他界。

ところで、古本屋で盗んだ5年前の馬券だが、その結果を知りたくて、家へ帰って調べてみた。ミスターX氏が買ったのは18頭中、3番人気と8番人気の2頭だった。で、結果は3番人気の馬がどん尻の18着、8番人気の馬はブービーの17着。単勝馬券は1着馬を当てるもので、2着だろうが18着だろうが、ハズレはハズレ。とはいえ、最下位とブービーを当てるというのも至難。上位人気と穴人気の馬を買ってのことだから。
もし、オシリの2頭を当てる馬券があったとしたら、このミスターX氏は大変な配当を手にしたはずである。ミスターX氏、潜在的な強運の持ち主なのか、あるいはとてつもなく不幸な星の下に生まれた人なのか。

はたまた、本命を外して、少額の単勝馬券を買ったミスターX氏とはいかなる人物なのか。年齢は、職業は、体格は、もしかしてミスターではなくミス?(挟んであったのは女性作家の推理小説だった)、結婚は、故郷は……。また、ハズレ馬券をなぜ捨てずに栞代わりにしていたのか。X氏への興味は尽きない。案外顔見知りだったりして……。


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