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【ステットソン】 [obsolete]

 

『……。その夜、行きつけの屋台の飲み屋ではじめて会った男だった。黒のステットソンをあみだにかぶり、目のうごきと赤すぎる口がいやしくて、一見して町の不良だとわかった。私のでたらめははじめてではなく、したたか酔ったうえでのことではあったけれど、会ったばかりの男に、しかもやくざと承知のうえで、軀をまかせようとした無茶はさすがにはじめてだった。』
(「街の神秘と憂鬱」原田康子、昭和40年)

「ステットソン」Stetson は日本で言うテンガロン・ハットあるいはカウボーイ・ハットのブランド名。
実際にカウボーイあるいはその時代の人間たちが被っていた帽子は一様ではなく、クラウンと呼ばれる頭を被う部分やプリム(つば)の大きさ、反り具合などの違う様々なものがあった。「ステットソン」は現在、西部劇映画で見られる最も一般的なかたちのカウボーイ・ハットだが、作られたのは19世紀中ほど、帽子職人のジョン・バターソン・ステットソンJohn Batterson Stetson によってだった。もちろん、それ以前からカウボーイやガンマンたちは似たようなハットを被っていたのだが。現在アメリカではこうしたカウボーイ・ハットのことを「ステットソン」あるいはたんに「ハット」と呼ぶそうである。
なお、テンガロン・ハットはクラウンがやや長いカウボーイ・ハットの一種で、映画に見る一般的なカウボーイ・ハットとは異なる。日本では「ステットソン」のこともテンガロン・ハットと呼んでいるが、これは間違い。また、テンガロン・ハットの由来がクラウン部分に水が10ガロン入るからというのも誤り。なにしろ1ガロンは3.8㍑なのだから、38㍑の水が入る帽子などありえない。これはテンガロンの由来となっているgalon(スペイン語で編むという意味)と単位のgallon を取り違えたためといわれている。

「街の神秘と憂鬱」原田康子の短編。
芸術(詩作)にとらわれ、酒に溺れ、男との刹那に身を任す中流家庭の娘が主人公。原田康子の作品ではおなじみのナイーブで真っ直ぐな性格の女性。当時で言えば(今でも?)“不良少女”ということになる。
そんな彼女・元子があるとき、本物の不良たちから強姦されそうになる。それが上の“引用部分”である。
彼女は間一髪助けられ交番に保護される。そのとき彼女は交番の外から自分の名を呼ぶ声に気づく。見知らぬ青年だった。青年は以前、彼女の家の近所に住んでいたというのだが彼女の記憶にはなかった。青年に家まで送ってもらいながら、彼女はひどくみじめな思いになり彼の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。青年の名前は分からない。翌日、母親に訊ねてみてもそんな「男の子はたくさんいたわね」と言うだけだった。しかし、それを機会に彼女の青春の“彷徨”は終わり、詩作仲間の紹介で小さな新聞社の取材記者の職を得た。
記者になって2年後、報道部から警察まわりへ移った。婚約者もできた。しかし、その婚約者との会話が途絶えたとき、女の水死体を見たとき、そしてあの夜、彼女を強姦しそうになった不良のひとりを警察署の中で見たとき、彼女は自分を保護してくれた青年の姿、そしてなぜかそれと対になって現れてくるデ・キリコの「街の神秘と憂鬱」のイメージが浮かんでくるのだった。それが彼女が“描く”ことができた唯一の青春の詩だった。
それから1年、警察まわりから社会部へ移ることになった彼女は、惜別の思いで、以前から気になっていた中年刑事・木次を酒場に誘う。ぶっきらぼうな刑事と短い時間を過ごし、肩を並べて夜道を帰りながら、彼女は3年前の夜のことを想い出そうとした。しかし、あの青年の顔も、「街の神秘と憂鬱」に描かれた輪まわしをする少女の姿もどこかへ消えてしまったようで、自分と刑事の足音が聞こえているだけだった。


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veke’sun

Stetson(John B).Resistol.Charlie 1.Bailey.東京ハット 、
家人も呆れるぐらいビーバー、ストローと買い、壁一面うまった時もありました。
武部です。ブログは開いておりません。
それにしても東洋人に、これほど似合わない帽子も珍しいのではないでしょうか。レコードジャケットをながめてもジミー時田、ウィリー沖山以外どうもしっくりきません(日本のカントリーシンガーの皆様ごめんなさい)
私はライブではステットソンのダービーハットを被っていました。(ピンキー&キラーズ、西部劇では酒場でラグタイムリズムをたたいているピアノひきがかぶっている帽子)

Honkytonk Man(邦訳センチメンタルアドベンチャー)
Clint Eastwood.監督主演その息子Kyle Eastwood(最初に結婚したマギージョンスンとの長男、 俳優と云うよりもジャズメンとしてのほうが名前をしられている)
私の好きなロードムービーの一つなのですが、この映画ではステットソンのカントリーハットが全編にわたって効果的に使われています。
ラストにナッシュビルのノイマン公会堂がOUT INNともにかなり克明にロケーションされています。

今年の夏は短いようです。暑さに弱い私には助かりますが、困る人も多いでしょうね。
充分にリフレッシュしてください。
by veke’sun (2009-08-17 21:52) 

MOMO

武部さん、こんにちは。

古い記事を読んでいただいてありがとうございます。

そうですか、武部さんはバンドをやってらっしゃるんですね。もちろんカントリーですよね。楽器はなんでしょう。ダービーハットの似合う楽器といえばジョン・ハートフォードのようなバンジョーでしょうか。

たしかに日本人にウエスタンハットは、外国人にチョンマゲをつけるような感じかもしれませんね。
ほかでは寺本圭一も見慣れるとなかなかですよね。とくに年をとって白髪になってからがいいですね。

「センチメンタル・アドベンチャー」は最近の映画でしょうか、西部劇はけっこう好きなのですが、最近はとんと……。
西部劇の帽子といえば、サム・ペキンパーの「ビリー・ザ・キッド」が思い出されます。

ご覧になったかもしれませんが、ビリーがボブ・ディラン、パットがクリス・クリストファーソンという豪華なキャスト。
大昔見た「左ききの拳銃」で若き日のポール・ニューマンが演じたビリーはふつうのウエスタンハットでしたが、ディランのビリーはシルクハット。史実はともかく、それはそれでカッコよかったです。

「荒野の決闘」でワイアット・アープに扮したヘンリー・フォンダのちょっとクラウン部分が高い、一見ダサイハットもカッコよかったし、「ヴェラクルス」でバート・ランカスターのつばが平らなメキシカン風の帽子も。それをかぶらずに背中にさげるのがまたイキだったり……。

どうも話がとまらなくなりそうです。

カントリーをはじめまだまだ好きな歌はいくつもありますので、できるだけはやく再開したいと思っています。
その節はまたよろしくお願いします。



by MOMO (2009-08-26 23:45) 

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