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【プレハーノフ】 [obsolete]

『「ねえヒロシ(彼女はいつもぼくを呼びすてにする。ぼくのほうではいつも彼女を森さん、というのだが。それは彼女が二十二歳の僕よりも十五も年長であるからでなく、有衣チャン、なぞと呼ばせるような可憐な風情はとっくの昔に失っているせいである)、プレハーノフって何なの?」』
(「感傷旅行(センチメンタル・ジャーニー)」田辺聖子、昭和39年)

「ゲオルグ・プレハーノフ」Georgij Valentinovich Plekhanovは1856年生まれの、ロシアの社会主義者。1882年にマルクス&エンゲルスの「共産党宣言」を翻訳し、ロシアで初めて出版し、マルキシズムの啓蒙に力をそそいだ。当初はレーニンのボルシェヴィキ(過激な革命主義)を支持したが、後に政治的に異なった立場に立つ。そのことで1917年の十月革命以後出国を余儀なくされ、翌年フィンランドで病死する。

「感傷旅行」にはやたらと社会主義、共産主義に関する言葉が出てくる。それはこの小説がそういう思想の裏付けをもつものだから、ということは全くなく。たんに、ヒロインである森有衣子女史が、“前衛党”の闘士・ケイに夢中で、その影響を受けまくっているからにほかならない。
たとえば、彼女はぼく(ヒロシ)に「レーニン選集」や「マルクス・エンゲルス集」など多くの社会科学の本を売りつけた。また党の講演会にまで連れて行った。また、ケイの言葉を必死に理解しようとする彼女は、「弁証法的唯物論と唯物論的弁証法」ってどう違うのとか、トロツキーって善玉それとも悪玉? などとヒロシに聞くのだった。

そのうち、プレハーノフって人の名前なの? と言ってた彼女が、「すべての人民は資本家階級の搾取と収奪に対し、団結してたたかうべきよ」などとのたまうようになる。
そして、闘士ケイに捨てられると血迷って、「バカ! 何が団結なのさ!」とばかり、ヒロシの部屋の本棚にあった「レーニン選集」をはじめとする社会科学書を、手当たり次第ヒロシに投げつけるのである。

「感傷旅行」でヒロシと有衣子は放送作家という設定。そのためラジオやテレビのスタジオがしばしば出てくる。プロデューサーや顔見知りのジャズ歌手(有衣子の元つばめ?)なども出てくる。それは田辺聖子がこの小説を書く前から、テレビやラジオの台本を書いていたからである。小説の中には「……ライター(台本書き)なんて文化的にはほど遠い。およそ町工場の臨時工なみの給料と、それに反して過重な労働である……」などと描かれている。ほんとに昔はそうだったのか? 彼女は当時、テレビ「東芝日曜劇場」の台本も書いていたとか。


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