【あ・じゃぱあ】 [obsolete]
『「うそ。アンダア・ドッグどころか、ブルドッグだわよ」
「あ・じゃぱあ！」
と、三十二にもなる譲次は、いま流行の、ふざけたスラングを弄しながら、
「うふふ。ブルドッグか。ひでえことになっちゃったな。しかし、ブルドッグだって、 相手次第でアンダア・ドッグにならぬとは限らねえや。――ひとつ、噛みついてみせて やろうか」』
（「負け犬/アンダア・ドッグ」井上友一郎、昭和２８年）
「あ・じゃぱあ」か「あじゃ・ぱあ」か「あじゃぱあ」か。いずれにせよ、昭和２０年代後半の流行語である。俳優の伴淳三郎が発信者。驚いたときに使う言葉で、「あじゃ」は東北弁で「あれ、まあ」の意味、「ぱー」はお手上げという意味だそうだ。この流行語で伴淳三郎は一躍“全国区”の喜劇俳優となり、主演の映画「アジャパー天国」、「名探偵アジャパー氏」まで作られた。いかにこの言葉が日本全国津々浦々まで浸透したかがわかる。子供たちまで使っていた。内海突破の「ギョッ」（これも驚いたときに使う）とともに戦後の二大ギャグだとする本もあった。「ギョッ」はなんとか延命だが、「あ・じゃぱあ」は完全に廃語となってしまった。
同棲しているふたりはともに銀座裏で生きている流しのヴァイオリン弾きと、キャバレーのダンサア（客の指名でチップを稼ぐ）。男は喧嘩ばかりして商売にならない。女は他のダンサアのように身体で商売をしないので、売れっ子順位も下位に低迷。ふたりはお互いに自分が負け犬だと思っている。そのくせ相手の仕事ぶりが歯がゆくて喧嘩ばかりしている。
上の引用は女の勤めるキャバレーのオーナーが選挙に出ることになり、ダンサアたちに自分の名前入りの浴衣を着せるなど選挙違反まがいのことをしていることに腹をたて、落選を願う女と、ゆすって金でも出させようとする男の会話だ。談判に言った男は結局、キャバレーのバンドマンに採用され、取り込まれてしまう。そのことも女には許し難いこと。
ラストは、朝、ふたりで歯を磨きながら、オーナーが落選すると二人とも失業するのではないかという話になり。「一票入れてやろうか」という会話で終わる。その軽さが、くすぶりながらもしぶとく生きている二人を象徴しているようで面白い。
井上友一郎は戦前「残夢」「夢去りぬ」（いずれもダンサアが出てくる）で注目を浴び、戦後は「銀座二十四帖」、「女給夕子の一生」などホステスを描いた“銀座もの”を多作していく。
こんばんは、MOMOさん。渡邊邦男監督と並んで好きな斎藤寅次郎監督ですよ〜あたしの。「アジャパー天国」確かね、映画の中の伴淳のセリフに「あなたがあじゃで、わたしがぱぁーよ」てのがあったと記憶してます。ロッパ、エノケン、デンスケ、誰も知らねー！脱線トリオも好きで大蔵貢の実弟、近江俊郎監督「脱線三銃士」と他なんかあったなぁー。話の筋はかなり忘れちゃいました…。チンチロリンのカックン！
by gutsugutsu-blog (2006-07-11 23:14)
年齢不詳のそっくりモグラさん。とても私より年下（多分。もしかして……）とは思えませんね。
「チンチロリンのカックン」も懐かしいギャグです。ふと疑問が起きました。はあれは音つきのギャグですよね。言葉は聞かれなくなってもメロディーはまだ残っているような気がします。まさか、作曲者も由利徹なのでしょうか。それとも、はじめから音があって、それに言葉をあてはめたのか。元々は“洋楽”だったような気もしますし。カヴァーだとしても、名訳ですね。天才です。
by MOMO (2006-07-13 15:49)
ははははっ、多分僕の方が年下ですよ（笑）チンチロリンのカックンは「カックンルンバ」からでしょうか？昔、ラジオでエアチェックしてよく聴いてました。今回、ネットで調べてみましたが作詞は松井由利夫で作曲は近江俊郎で編曲は長瀬貞夫となってましたが、本当かどうか…胡散臭いです！MOMOさんのおっしゃるとおり、そうですよね、チンチロリンのカックンのところのメロディはよくギャグの落ちのところでテレビでも使われてましたよね。カックンルンバの歌詞は忘れてしまいましたが谷啓の「あんた誰？」とよく似たパターンだったと記憶してます、記憶違いかもーあんまり自信ないです（笑）
by gutsugutsu-blog (2006-07-13 22:13)