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【ペーブメント】 [obsolete]

『……ギリギリの気持までをはっきりこのノートに書き、それをこの屋上庭園の一隅に何気なく残して、自分自身は、ペーブメントの埃りの上に強く打ちつけて四散させるというこのわたしの計画は、計画としてはとてもわたしの気に入ったものだったのに。』
(「魔に憑かれて」北原武夫、昭和32年)

「ペーブ(ヴ)メント」Pavement は舗道(舗装道路)のこと。言葉そのものは大正時代からあった。当時はペーブなどと省略したり。戦時中は敵性用語としてお蔵入りしていたが、戦後ホコリまみれの言葉で引っ張り出され、小説でも盛んに使われた。
歌謡曲でも♪ ペーブメントにうつる影が……(二人の銀座)などと歌われていたが、なぜかいつの間にか廃語になってしまった。昭和50年代にはほとんど聞かれなくなってしまったのではないか。ペーブメントという言葉が長すぎてゴロがわるいからなのか。親が子供に「危ないからペーブメントを歩くのよ」なんて言ってられないものね。

戦前、新聞記者や雑誌編集者をしながら小説を書いていた北原武夫は、戦後「マタイ伝」(昭和21年)によって作家活動を再開する。同時に妻である宇野千代が発行していた婦人雑誌「スタイル」を復刊する。その雑誌がヒットして銀座に自社ビルを建てるほどになり、一時は実業家と作家の2足の草鞋(廃語?)で活躍。しかしこの「魔に憑かれて」を発表したころから雑誌社の経営が厳しくなり、2年後に倒産。その後、昭和40年代には「平凡パンチ」などで官能小説を書く。
「魔に憑かれて」は先輩俳優と不倫を続けている新劇女優(これも廃語?)の心理の推移を、彼女の日記というかたちで描いている。冒頭の引用部分は、ヒロインが彼を受け入れてしまうときの自分の性的な姿態を許すことができず、デパートの屋上から投身自殺をはかろうかどうか逡巡するラストシーン。


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