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【ヒロポン】 [obsolete]

『「ひどいヒロポンの中毒症だったが、それもきれいに治った。それだけでもセピア教は、僕にとっては生命の恩人だ」
「なかなか霊験あらたかなようだね。掌を、いったいどういうふうにかざすのか」
「掌を上に向けて、かざすだけだ。十分か二十分の間だ。ひとによっては、掌から発射される光が見えるという。……」』
(「蛇と鳩」丹羽文雄・昭和27年)

「ヒロポン」Philopon とは覚醒剤で、塩酸メタンフェタミンの商品名。商品名というぐらいなので、かつては大ぴらに売られていたのだ。戦前から眠気覚ましとして使われ、戦時中は特攻隊の士気を鼓舞するためにも使われたとか。戦後はその恍惚作用を求めて、芸能人や文士、さらには一般の若者も常用するようになった。ちなみに、文士の無頼派と言われた、織田作之助、坂口安吾、太宰治は、いずれもヒロポンによりその寿命を縮めている。いずれにせよ、戦後、希望を失ったり、不安を覚える人間の拠のひとつではあったわけだ。しかし、中毒症による精神障害などが指摘され、昭和24年、取り締まりの対象となった。それから半世紀以上を経て、ヒロポンは消えたが、それに替わる覚醒剤はいまだ新聞の社会面を賑わせている。

戦後、このヒロポンと同じように民衆に広まっていったのが新興宗教。その新興宗教をモチーフにして丹羽文雄が描いたのが「蛇と鳩」だ。新興宗教団体をつくることで金と権力を手にしようとした男とそれに巻き込まれていく男の話。最終的に教団は脱税容疑で弾圧され、野望は潰えるのだが、作者は百パーセントその男を否定してはいない。
新興宗教の問題もまた、21世紀になってもほとんど変わることがない。「宗教は麻薬だ」と言ったのはマルクスだったが、ともに人間個人の脆弱性を顕在化させるものということばかりではなく、権力がその蔓延、浸透を怖れるという意味でもよく似ている。


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kemukemu

こんにちは。
大道芸観覧レポートという写真ブログをつくっています。
ヒロポンの昔の広告もとりあげています。
よかったら、寄ってみてください。
http://blogs.yahoo.co.jp/kemukemu23611
by kemukemu (2007-01-26 19:25) 

MOMO

返事が遅れてすみません。コメントをいただきありがとうございました。
あまりにも古い記事にコメントだったので、気が付きませんでした。
さっそくブログ見せてもらいました。
by MOMO (2007-02-09 21:28) 

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